タイ王国の商標事情
第18回 外国企業の知財担当者に聞く、アジアの知財戦略(2)
前回に引き続き、GMの知財担当者であるアレックス・テイル氏のインタビューを紹介する。同社では、アジアで「侵害に対する差押え」を行うときに、複数 の企業が共同で行う「共同侵害対策(ジョイント・オペレーション)」を導入し、高い成果を上げているという。その点を中心に聞いてみた。
- 本部が商標全部を管理しているんですか?
「うん。まあね。でも僕はタッチしてないから。どんな風に管理しているかというと、車を作るのに使用するパーツは全部で2000くらい。そのすべてのパー ツに番号がつけて管理している。ニセモノがでたら我々にその真偽がすぐに分かるように。」
- 車の会社であって、パーツの会社じゃないのに、パーツの侵害に気を配っているんですか?
「そうだよ。我々だけじゃない。日本企業だって相当気にしてるよ。本田だって日産だって、かなりパーツについて気をつかっているようだよ。」
- 車のパーツの侵害品を見つけるのってたいへんそうですが?
「そうさ。スーパーで売ってるわけじゃないから。だから、レギュラーで探偵をやとって常に監視しているんだ。」
- 監視は世界中でやっているの?
「そうしたいけど、それはさすがに難しい。だから「気になる国」で。たとえば中国みたいに侵害が多い国ではね。日本は対象外。だって今まで問題なかったし、そういう指摘もないからね。」
- 侵害事件がおきるといろいろと税関やら警察やらとの折衝が必要でしょう。彼らに対してどんな印象がありますか?
「広すぎるよ。中国の税関はなかなかやってると思うよ。輸入品のチェックしてくれるし。シンガポールだって、香港だってそんなことはやってくれない。「中 国の税関はよくない」と世間でよく言われているけれど、規模が大きいからだと思うな。 彼らは結構真剣に取り組んでいるよ。」
- 御社では、侵害対策の際、ジョイントオペレーションを他社に持ちかけることがあるという話を伺いました。ジョインドオペレーションをやり始めたのはいつから?
「僕はもともとピンカートンっていう調査会社にいたんだ。そこで、複数の会社の侵害品がいっしょに見つかることもあって、いっしょに共同して侵害対策しま せんか、ってもちかけることがあったわけだ。結構、功を奏するということはその頃から実証済み。僕がGMに入った2年前から。よく共同侵害対策の手法を とっているけれど、共同侵害対策は、有意義だって誰もがいうよ。コスト削減になるし。」
- 共同侵害対策をする一番の長所はコスト削減?
「そうだね。1件あたりに対して、少ない資金で処理できる。結果的にいろんなケースをいっしょに対策することができるから。 」
- 普段は競争相手だけれど、侵害対策については協同者?
「10年前くらいだとなかなか同意を得にくかったけれど、最近はそうでもない。今はどの会社だって意義あるって言ってるよ。 」
- 何社くらいが参加するんですか、その共同侵害対策に
「8社だったり、それより多かったりすくなかったり。覚えているかぎりでは15社が協同でやったってこともあったな。たいていは3、4社。」
- だれが主導権を発揮して行っているのでしょうか?
「ケースバイケースさ。決まってるわけじゃない。事件の内容によって自ずと主導者は決まってくるものさ。」
- 共同で侵害対策する場合の作業の流れはどういう感じなんでしょうか?
「クライアント同士が集まって協議しあって調査会社に出かけることもあるし、調査会社がリーダーになってまとめることもある。調べてたら君のところのもでてきたんだけど、いっしょにやらないってね。」
- 複数企業の共同作業というと、早急に手をうちたいときに、各社の同意が必要でモタモタしてしまうなど、時間的デメリットが起こりそうな気がしますが。
「同意を得るのに時間がかかったりすることが問題だけどそれも最初のうちだけだった。いまや、コアの仲間ができてるから、意志の疎通ができてるし。もとも とこの世界はそれほど広くないし、担当する人は決まってるからね。もう仲間って感じなんだ。」
- 共同で対策する会社は、御社と同じ車メーカー?
「トヨタだったり、BMだったりね。それと、部品会社と協同することも多いな。とりわけスパークプラグは侵害品がよく出るので、NGK(日本特殊陶業株式会社)とジョイントすることは多いかも。」
- 侵害品対策したら、再犯は防げるの?
「いいや、すぐには無理。犯罪は繰り返されるね。刑訴が多いけれど、結局裁判官は執行猶予みとめたりして、刑が軽いから。政府は法を整備し、きちんと遵守すべきだと思うね。刑罰が低いとはだれもが思うところさ。」
写真:NGKの小川さん。テイル氏のいわゆるジョイント・オペレーション仲間だ。彼女もまた、このセミナーで侵害対策についてレクチャーを行い、好評を得ていた。
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