タイ王国の商標事情
第18回 外国企業の知財担当者に聞く、アジアの知財戦略(1)
添付の写真:GM (china) investment Co. Ltd.のアレックス・テイル氏.
タイのバンコクでは、DIP(商務省知的財産局)や、アメリカ大使館の主催、共催する知財セミナーが盛んだ。その一つにパネラーとして参加していた、GM (china) investment Co. Ltd.のアレックス・テイル氏にGMの知財管理、侵害対策について聞いてみた。
- ブランド部門に所属ということですがメインのお仕事はなんでしょう。
「アジア・太平洋地域のブランド管理。要するに侵害対策を行うってことだ。」
- じゃ、まず自社ブランドを守るためにはいったいなにが一番重要なことだと思いますか?
「うーん。自社の商品について知るってことだ。いくら侵害対策っていっても自分で権利をおさえていなければどうにもならないからね。」
- でもGMって、著名だし、たとえ、どこかの国で権利化するのを忘れていても、著名性ゆえに行政機関だって結構簡単にたすけてくれるじゃないんですか?
「著名性に甘えていると相当怖いことになるからね。そんなことはできないな。」
- 10年くらい前まで知財なんて日本じゃ誰々が知っているのかっていうくらい関心度は低かったけれど、今や知財部ってすごく注目されていて知財担当者があわてているくらいです。あなたの国、アメリカではどうですか。
「アメリカだっていっしょさ。GMだって2年前に僕が入るまで、USに一人、EUに一人くらいしか知財担当者はいなかった。いつだって一人か二人くらいしかいなかったんだよ。
今、うちの会社では、アジアの侵害品対策担当者が3人。国籍はばらばらで、中国人、アメリカ人、オーストラリア人が一人ずつ。それから実際に調査をするのは中国人だね。」
- 今でも日本の中小企業で、知財担当者が一人しかいないなんてことはよくあることのようですが、たとえ一人しかいなくても、担当者は外国にまで気をつかわなくちゃならないくらい国際的な問題は多発していて、担当者一人では結構たいへんそう。
「もはや世界戦略を考えないですむわけにはいかないからね。企業の担当者はたいへんなんだよ。」
- アジア・太平洋地域全域があなたのテリトリーなんですか?
「そうだよ。もともとシンガポールにこの部門はあったんだけど、2年前に中国地域の重要性を考えて移転したんだ。」
- なぜ「中国」なんですか?中国を生産工場の地にしても、人件費はもうそれほど安くもないでしょう。ベトナムとか東南アジア地域を生産工場に指定したほうがよっぽど便利じゃありませんか?
「テクノロジーを考えるとね。ベトナムということも考えられるけれどやっぱり技術的に問題があるから。それほどすごい技術が必要なわけではないけれど、だ からといってどこでも簡単に生産できるというものでもない。まあ、東南アジア地域の生産工場として、タイのラヨーンに工場を設けているけどね。」
- やっぱり、中国って重要ですか?
「もちろん。中国の市場を無視できないからね。それに、車の製造について我々は北アジアを拠点とするようになった。そうなるとシンガポールではいささか距 離的にも遠いんだ。だから中国、上海に転居したわけだ。そこで僕は侵害対策のみを担当。登録手続きなどは担当していない。」
- 10年前を振り返って、10年後に中国がこんな風にクローズアップされる国になると予測していましたか?
「いや。状況がずいぶん違ってきたと思う。生産工場だけじゃなくて、マーケットプレイスとして重要な場所になってきたからね。」
- 日系企業も最近中国での知財の保護に神経質になっているけれど、その一方で、東南アジアは二の次という感じですが、その点についてどう思いますか?
「中国は大きな問題だから、日系企業の気持ちは分かる。たとえば僕たちの企業は、東南アジアではそれほど大きな問題はおきてない。なぜかといえば市場がそ れほど大きくない。が、中国は市場として大きい。だから中国が大切と思う。もし、うちの車がタイやベトナムで大きな市場を獲得していれば東南アジアにも もっと真剣に目をむけなければならないと思うけれどね。東南アジア、例えばベトナムとかタイについては、うちなんかよりも市場を確立させているトヨタとかホンダにとってのほうが重要なんだと思うよ。マーケットシェアが鍵なんだ。」
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