タイ王国の商標事情

第16回 タイ国ビール戦争

日本の冬とは比べ物にならないくらいあったかいタイではあるが、それでも12月の季節をタイの人は「冬」と呼ぶ。

この国の冬はすなわちビアガーデンの季節でもある。街中のあちらこちらの広場がこの季節、巨大なビアガーデンへと変身する。
ビアガーデンの主役はもちろん「ビール」。遠く離れた日本に住む人にとってタイのビール?ときけば「シンハー」くらいしか思い浮かばないかもしれないが、10年ほど前からタイでは激しいビール戦争が起きているのだ。

1994年までは、ブンロート社の「Shingaビール」の一人勝ち。このビール 500mlのビンがコンビニ価格で60バーツ程度(まあ160円くらいかな)。公務員の初任給が7000バーツ。一流ホテルで働く従業員も月給1万バーツ 以下の人が多いことを考えれば、ビール1本60バーツは結構懐を直撃する値段なのだ。
だから従来一般的なタイ人には、安価でへべれけになれるウィスキーのほうが人気が高かった。

そこへ安価な「Chang Beer」が登場。1本50バーツ程度の手ごろ値段。
1995年に登場したこのビールは人気のバンドをコマーシャルに起用したり、大々的な広告宣伝を繰り返した結果、ビールの市場を席巻してしまった。
今や、市場の50%を占めるとも70%を占めるとも言われている。

あわてた「シンハービール」の会社は廉価なビール「LEO」の大規模販売戦略を展開。「ChangBeer」のターゲットでもある庶民層に食い込もうと悪戦苦闘しているところだ。

ご存知のとおり、東南アジアの知財権意識はそれほど高いものではない。が、一流企業は別。

シンハービールの製造元であるBoonrawd Brewery Co., Ltdは、1999年時点で「SINGHA」(R75749559)やラベルデザインのアメリカでの商標登録を済ませている。
アメリカの商標データベース「TARR」を検索するとわかるのだが、1999年時点(まだ「ChangBeer」は世の中に浸透していない)ですでに「LEO」の登録も済ませている。
こうしてみるとBoonrawd Brewery Co., Ltdが決して行き当たりばったりに廉価ビールを市場にあわてて製造販売したわけではないことがわかる。

この会社の二つのビールを比べてみると面白いことに、「Singha」のラベルはほぼ英語で記載、製造会社名も英語で記載されているのに対し、「LEO」ビールは完全にタイ語のみ。製造会社名すら英語では記載されていない。
ターゲットを明確にした販売戦略がうかがえる。

「Singha」も「LEO」もともに意味は「獅子」という点で統一を図っている点もすばらしい(ちなみに「Chang」は「象」。国民的動物である「象」を商標として採用することで、地元意識をくすぐろうというのがこの会社の狙い)。

商標戦略・ビジネス戦略はともかく、どのビールもタイ産ビールは「味が濃い」!!
結構簡単にへべれけになれるのが特徴。翌日に酒が残るという人も多いらしい。
ビアガーデンやらパブやらで陽気に飲んだくれている日本人女性は危ないぞっ。

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