タイ王国の商標事情

第10回 王様と商標

12月5日は、タイの王様プミポン・アドゥンヤデート国王の誕生日。2004年は喜寿にあたる非常におめでたい年だ。日本で天皇誕生日が祝日であるように、タイでももちろん王様の誕生日は祝日。

もともと王族敬愛の傾向がつよいタイ。毎朝8時と夕方6時には王様賛歌が街中で流され、人々は立ち止まってそれを聞 く(無視して歩くなんてとんでもない)。映画の上映前にも必ず国王賛歌。観客は絶対立ち上がって聞かなければならない(無視して座っているなんて恐れ多く てとんでもない)。


祝日といってもただの休みじゃない。アルコール販売禁止・パブ/レストランの営業停止の日。酒など飲んだくれている場合ではない。
なぜだっ?とタイ人に聞けば、敬愛する王様の誕生日なんだから神聖な気持ちで敬いなさいってことらしい(もっとも「僕らの王様だって本当はお酒好きだと思うけどね」と彼は言っていたけれど)。

商標法と王様は?
日本の商標法3条にあたるのが第8条。
国王の称号、官名、国王の称号の略、国王、王妃、皇太子の肖像からなる商標およびその特徴を有する商標は登録が拒絶。
そればかりではない。「国王、王妃、皇太子、王宮をあらわす名前、語句、内容、もしくは記章」も登録禁止。
日本の商標法だって「国王を現す内容、語句」が一概に登録されるとは思えないが、4条1項7号「公序良俗違反」を理由として拒絶されるであろうと大雑把な くくりをしている日本に比べて、王族関連の禁止事項が細かく決められているのが特徴的だ。
この国の商標法も「公序良俗もしくは国策に反する記章の登録は禁止」という条項はもちろんある。

じゃあ、王様の肖像画は恐れ多くて庶民の手元には置いておけないものかというとそんなことはない。
むしろその逆。どんな小さなレストランでもショップでもオフィスでも王様のポスターやらカレンダーが必ず貼ってある。
もともと街中に王様の肖像が氾濫しているわけだ。王様の誕生日前後ともなれば、さらに王様をたたえる供物台が飾られていっそうきらびやかになる。

知財の普及に一役買っているのも王様だ。
2月2日は発明の日。これは現国王が発明をした日にちなんで設けられた日。王様は灌漑設備の発明をした経験もある立派な特許権者なのだ。さらに、商務省知 的財産局に出向いてみれば大きな展示室があって、王様や皇女様の手による数々の著作物が展示されている。
知財は大切、科学の普及も大切、演説の機会があるたびにこの手の発言をよくされている。

国王ってリーダーなんだなあ。
そうそう、知財にも知識長けた王様は、ユル・ブリンナーの「王様と私」で有名な国王のラマ4世から数えて四代目の子孫にあたる。かの映画のみならず、そのリメーク版「アンナと王様」も、この国では発禁映画。国辱映画なんだそうだ。

「いくらチョウ・ユンファのファンでも「アンナと私」は見てないでしょ。」タイの友人に意地悪く聞いたらこういわれた。
「もちろん見たさ。そんなの簡単。いくらだって海賊版は手に入るからね。」だって。
王様、侵害対策も必要よっ!

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