タイ王国の商標事情

第9回 タイの特許庁に行ってみる

タイなんかに知財制度なんてあるの?
そんな失礼な言葉をときどき聞く。ええ、ありますともさ。たしかにタイはパリ条約にも加盟していないけれど、それでもしっかり特許、実用新案、意匠、商標法に当たる法律が存在するのだ。
しかも特許だって、商標だって審査主義なのだ。ということは、もちろん審査する行政庁があるわけだ。商務省知的財産局というのが日本のいわゆる特許庁にあたる。知的財産局=Department of Intellectual Property は、DIPという名称でこの業界では親しまれている。

商標専門でがんばってきた(つもり)弁理士として、商標審査がどんな風に行われているのかは非常に興味のあるところ。そこで、ふてぶてしくも商標部門の部長にインタビューしに行った。

タイに限らず、東南アジアの役所の重鎮は女性が多い。日常生活を見る限り、既婚で あろうと子持ちであろうと外で働き続ける女性が多い(タイじゃ、外食産業が花盛り。気軽にみんなお外で食事をするのでめったに主婦は料理したりしないの だ)。そのせいか、役所で働く人の半数は女性、重鎮も女性だったりする。商標部門長もしかり。Ms. Pajchimaは、美人でちゃきちゃきした女性部長だ。パンパン質問に答えてくれた。

-商標部門はどれくらいの規模なんでしょう?
「商標部門全体で30人ほど。6つのグループに分かれていて、それぞれのグループに登録官が1名、審査官が4名います。」

6つのグループというのは、(1)食品、(2)化学・文具(なぜこれが一緒なのかは不明)、(3)化粧品、(4)電気製品・コンピュータ、(5)被服・布地、(6)サービス一般だそうだ。

-審査官と登録官の役割はどう違うのでしょう?
「審査官は実際に出願書類に目を通し、先行商標と類似するかだの、識別性があるかだのを審査する人。登録官は審査官の審査資料に目を通し、最終的に登録するかしないかを決める人。」

がちがちの審査基準が存在する日本とちがって、どこをどう探しても有効な審査基準というものはこの国には見当たらない。が同じ分野についてされた出願のすべてを一人の登録官が見ることによって、人間審査基準というのが出来上がる。一分類・一出願の効能か。

審査官の一人に話を聞いてみると、自分の意見と登録官の意見が食い違うことはよくあるらしい。
が、審査官には、何の権限もないわけでいろいろ不満もあるのだがいたし方ないということだ。
そもそも審査官になるためにはさほどの苦労や資格や能力はいらないが、登録官になるためにはそれなりの経験年数が必要になるうえ、試験にパスしなければいけないそうだ。ちなみに、審査官経験7年ではまだまだ全然経験不足ということだ。

タイの商標出願は、年間約3万件ほどだ(2002年DIP統計による)。実質的な審査をする審査官は24人だから、彼らは月に平均140件から150件の審査をこなしているということになる。
日本に比べれば…というのはさておき、審査官自体は相当つらいと感じているらしい。月に640件もの審査結果を見なければならない登録官にしてみればなおさらだ。
こうなると分野別にグルーピングしていること自体にも不満が募るらしい。

Ms.Pajchimaがこう愚痴る。
「グループによって出願件数にばらつきがあるのが問題でねえ。コンピュータの分野なんて件数がどんどん伸びてるし。バランス悪くて。

« 第8回 | 一覧へ戻る | 第10回 »