タイ王国の商標事情

第8回 立体商標判決

タイに立体商標制度なんてあるの?
ありますとも。が、商品形状をした立体商標の登録が難しいのは、日本と同様。識別性欠如で登録されないケースが多いらしい。
タイの知財裁判をいっきに扱うIP&IT裁判所(知的財産国際貿易中央裁判所)の事務局長であるMr. Ruansgistから「最近、立体商標に関する判決がでたんだけど、うちの国じゃ初めての立体商標での登録ケースだよ」と教えてもらったので、ここにご 紹介。

タイの商標法では、「識別性をもった商標とは、その商標に使われる物品が他の物品と異なるということを公衆若しくは物品の使用者に知らせ理解させる特徴を持った商標のことをいう(7条)」となっている。解釈の余地がある分だけ日本よりも規定が緩やか且つ厳しい内容だ。

問題になった商標は、ライターの立体商標2件とペンの立体商標2件。(ちなみにこの国では併合審理だのの規定などなくとも原告が同一であって、事件が似ていれば自然と1事件で4つの商標案件を争うのは当たり前)。
ごらんになればお分かりのようにおもいっきり商品形状そのもの。被告側である知的財産局(日本の特許庁)側は、公衆や需要者が識別するにいたるほどの特徴は原告の商標には見られないとして、登録拒絶を主張。
原告側は長年の使用に基づく識別力の獲得(日本の商標法3条の2に値する条文が7条3項にある)を主張した。

おもしろいのは、裁判所がこの判決にいたるまでには、TRIPSや、各国の立体商標の登録の状況、登録に関する考え方を熟慮しているところ。

「商標は他の知財権と異なり、更新を続けることで永久的に使用を独占できるものであるから、その登録には慎重になるべきである。もし無制限に立体商標を認めてしまっては、不正競争を引き起こすことにもなるだろう」
だから基準が必要なのだ。

というわけで基準を提唱:
「物品の形状からなる商標は、以下の特徴がない限り、登録を認めるべきである」
1)商品の構造や性質(自転車そのものの形状は、自転車に関し特徴がないとされる)そのもの
2) 機能的な部分そのもの(水洗トイレのボタンのごとき機能部分)
3) 商品の主たる特性そのもの(例えば円筒形のペンはペンとしての特徴がない)

ここまで判決文の流れをみるかぎり勿論この4件の商標はいずれも登録拒絶されるに決まってる。
…ところがどっこい結論としてIP&IT裁判所はこれらの商標の識別力を認め(使用による顕著性ではなく、形状自体に識別性ありと判断)登録を認めるべきとの判決を出した。

現在、この4件の登録是否を巡っては最高裁で争っているところらしい。
みなさんはどう思います?登録是?当然拒絶?

« 第7回 | 一覧へ戻る | 第9回 »