タイ王国の商標事情

第7回 商標調査をしてみよう!!

さて、今回は商標調査の実態をご紹介。なんたってブランディーのウェブだもん。やっぱり商標調査でしょ。タイの特許法律事務所に勤める商標担当弁護士さん(Ms. Wannapa Limlahapun)に頼んで調査の方法を教えてもらった。

タイでも商調査にはデータベースを使う。DIP(タイ国商務省知的財産局)の提供するいわゆるIPDLが唯一のデー タベースだ。このデータベースを使うためには、わざわざバンコク郊外のDIP(タイ商務省知的財産局、いわゆるタイの特許庁にあたる)に出かけなければな らない。DIP内のコンピュータルームのみでしか調査ができない仕組みになっているからだ。高い金を出せば企業内にデータベースを引くことも可能らしい が、なにしろとってもお高いので、一般企業、事務所には手が出せない。というわけでDIPに出かけてコンピュータルームでキーボードをたたくというのが一 般的な調査のやり方だ。

文字商標調査にtry!

残念ながら、データベースの画面の写真を撮りたい、画面のコピーをとりたいと受付嬢に申し出たものの許可が下りなかった(そんなに上の人まで掛け合ってく れたわけではないので、どこに不可の根拠があるのかは不明)。実物をお見せできないのは残念だが、記録したかぎりでは、商標調査のデータベースの第一画面 はこんな感じ(資料1)。

このデータベースで文字商標調査、図形商標調査ができるのだ。
たくさんの空欄があるが、このすべて埋めなければならないというわけではない。絶対入力しなければならないのは、商品・サービスのコード。これは文字調査だろうが、図形調査だろうが、共通必須入力項目だ。

さらに文字調査の場合には、「語頭音」「語尾音」の子音を必ず入力しなければならない。要するに、これらふたつの音節が共通する先行商標を全部拾ってくるというわけだ。
「FATHER」なら「ファ」「ザア」。「ファ」を含む先行商標、「ザア」を含む先行商標を拾ってくる。
このふたつの音節を基本に関連する先行商標をするということは、「語頭音」「語尾音」は類否判断において大切だということ。日本では「語頭音」は称呼上重 要な位置とされているけれど「語尾音」の相違はそれほど重要視されない。この点がタイと日本のプラクティスの違うところ(複数の特許事務所の商標担当者に 聞くとやはり「語尾音」は称呼上、大切だそうだ)。

条件入力が済んだら「エンター」で、関連商標と思しきリストが表示される。出願番 号しか表示されない代わりに「STATUS」が表示される。「Status」は3つのカテゴリー(D…Delete, R…Register, P…Pending)に分けられており、詳細表示するとなぜ「Delete」されたのかの理由を知ることができる。拒絶された、 放棄された出願に関するデータは「削除」データのカテゴリーに入るため「Delete」ということらしい。いずれにせよ、拒絶の理由条文がきちんと示され るので、先行商標がどのように扱われたのか判断することも容易。

さらに「更新手続の有無」「出願人名義の変遷」「DIPからだされた通知一覧」 「手続の変遷」など細かい情報を拾うことも可能。とりわけ出願人に関しては、現在の出願人のみ、当初出願人の名義のみではなく、いずれの名義も知ることが できる。なかなかスグレモノではないか?このデータベースは…。

すごいと思う反面、一覧表示されるデータは商標の「アルファベット順」であって、 並び替えは不可、プリントアウトはいちいちDIPの窓口に頼まなければならず、紙と鉛筆片手にメモをとりつつ作業をしなければならないなど、ちょっとなん とかすれば解決されるのにと思うような面倒な点も見逃せない。

むむっ。音節入力が難しい!!

ざっと使い方が分かったところで、ぜったい世界中登録商標が存在するに決まっている言葉「EAGLE」を使って、試し調査をしてみることに。
語頭音節、語尾音節を入力して結果をみると、なるほど、「EA」「GLE」を含む語が一杯並んでいる。

ここで、ふと思いついたのは、「AIGLE」という言葉(なにしろ、つい最近ジュ ネーブに行ったばかりなので、なんとなくフランス語が頭に残っているのだ)。「AIGLE」はフランス語の「EAGLE」だが、日本だったらほぼ間違いな く称呼類似として扱われる。が、リストを見回すとそんな商標は見当たらない。「AIGLE」といえばフランスのスポーツウェア企業が商標登録しているはず だ。改めて「AIGLE」から探してみると、予想どおり登録商標は見つかった。が「AIGLE」から「EAGLE」は出てこない。

「ええーっなんでえ?タイじゃ「AIGLE」と「EAGLE」は非類似?」
「そんなことないですよ。類似として扱われます。」
「なんで出てこない?」
「タイの場合、似た音節でも表記が違うという音がいくつもあるから。通りいっぺんの調査じゃ駄目なんですよ。」

うーん。なるほど。商標自体がタイ語なら音節を表示する文字も一通りしかない(タイ語は表音表記言語なので)。が、英語商標、フランス商標などアルファ ベットからなる商標の場合、タイ文字に直す段階で、アクセントの位置、音の上がり下がり(「あ↑あ」とか「あぁ↓」とか)で、タイ語に直す際には、たくさ んの種類の表記が考えられる。それを考えつつ入力しないと、取りこぼしのない調査はできないのだ。

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