タイ王国の商標事情

第5回 CATVの憂鬱

いくらインターネットが登場したからといって、テレビがすたれてしまったわけではない。海外に住む外国人にとって大切な情報源はケーブルテレビ。タイのローカルテレビは当然タイ語で放送される。そのため英語や日本語の番組を放送するケーブルテレビは貴重な存在だ。

タイの大手のケーブルテレビ会社UBCは、世界中のコンテンツ会社(NHKだったり、BBCだったり、20世紀フォックスだったり)と契約を結び、有料放送 サービスを提供している。この会社もやはり知財権侵害と無縁ではない。それどころか海賊企業による侵害のおかげで被害甚大だという。一体どんな被害なの? というわけでUBCにお邪魔してDeputy Chief Financial OfficerのMr.Vasili Sgourdosに話を聞いてみることにした。

-御社はコンテンツを放送するサービスでしょ。知財権の侵害なんて遭ったりするの?
「被害があるかだって?被害甚大さ。今、タイ国内でケーブルテレビの潜在的需要は200万人あると言われている。海賊テレビのおかげで需要者がみんな海賊企業に流れしまう。」

-ケーブルテレビの海賊版って一体どういうもの?
「サテライトから電波ジャックして、自分の顧客にプラグインさせて終わりさ。簡単なもの。でもこれじゃコンテンツ会社は何も得るものがない。DVDムー ビーを流す会社まである。DVDやVCDを放送して映画会社まで脅かすケーブルテレビもあるんだよ。」

タイではケーブルテレビ放送事業者は、広告収入を得てはいけないことになってい る。だから収入源は加入者の定期購入費用のみ。だから海賊テレビが横行して、加入者が減ればなるほど大打撃を受けることになるのだ。(ちなみに、BBCや CNNのニュース放送中、本国放送でコマーシャルがオンエアされるとき、タイでは広告禁止につき、壁紙が貼られて隠されてしまう。UBCで働く技術者によ れば、手作業で「はっ」っと壁紙を番組に挟みこむ。ひとたび担当者になると12時間はずっと画面を見ていなければならないらしい。そりゃあたいへんだ。)

「ライバル社が存在すること自体はいいことだと思う。だけど、パイレーツ企業は、 あきらかにフェアじゃない。彼らはライセンス料(UBCは年間200,000万バーツもかけている)税金(収益の6.5%も払ってるんだ)も払わない、技 術料も支払わない。元手をほとんどかけていない。それじゃ競争にならないじゃないか。ちゃんと同じ土俵で戦うならいいけど、彼らの現在のやり方は卑怯だと 思うよ。」

-何が問題なんだと思いますか?
「まず法律が悪い。罰則規定がゆるすぎる。次に裁判官の判決は甘すぎる。執行猶予ばかり与えているから被告側に反省の色はない。さらに海賊版を手に入れる消費者側に対しても何らかのペナルティーを科すべきだと思う。」
「さらに、海賊版を平気で購入する側になんのペナルティーがないのも問題だ。悪いと知っていながら手を出す行為に対してそろそろ罰則を設けるべきなんじゃないかと思う。」
「タイ政府の問題をちょっと教えようか。
タイ政府の税関、警察、PRP、ELD CDなど6つの機関が侵害問題に対して協力しあおうというMOU(協定書)を結んだ。ところが、誰が率先して舵を 取るか、という段になってどこも舵を取ってくれない。どこの機関も「なんでうちがやらなきゃいけないんだ」ととたんに弱腰になってしまう。それが何よりも 問題さ。」

海賊放送に対するMr. Vasili Sgourdosの不満は一気に爆発…。いったん語りだすともう止まらない。自社にはなんの著作権もないため、今ひとつ有効な法手続きも起こせない。他の アセアン諸国に比べタイの行政は海賊放送に甘いそうだ。他国のケーブルテレビ企業との競争にもハンデ(海賊放送との戦いに労力・費用とも使ったうえでの) 付の参戦となる。これだけ材料がそろえば憂鬱な気分になるのもよく分かる。

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