「模倣品ってさ、時計とかバッグとかじゃない。うちの会社は部品の製造だから模倣品は縁が薄いのよ。」
なぜ私がバンコクにいるのかといえば、在タイ企業を相手に「「知的財産権って知ってる?ちゃんと大切に守ってる?」というセミナーを開催 するためなのだが、話を持ち出すたびに、企業の皆さんに挨拶代わりに冒頭の言葉を言われてしまう。 「部品と模倣は関係ない?それどころか、関係多ありよ」。が、言葉で言うだけでは重みがない。というわけで、車のパーツの模倣品を探しに市場に出かけた。
たしかにパッポン通り(偽物バッグや時計で有名な通り)には車のパーツのコピー商品なんて見かけなかった。どこに行ったらあるんだろう。 「タイはねえ、車の値段が高いけど(日本の約3倍)、その分みんな何年も乗り回すんだ。平均10年くらいかなあ。だから部品の交換は頻繁で、クロントーイ とかチュラーロンコン大学のそばにそういった部品を専門に扱う店がたくさんあるよ。」と教えてくれた車の運転手さんにその場所まで案内してもらった。
なるほど、チュラーロンコン大学付近のパーツ街に行くと、歩けど歩けど車の部品屋さんが並んでいる。が中古の部品屋さんが多い。くず鉄屋さん一歩手前という感じの薄汚れた雰囲気の店も多い。 「コピー商品なんて見栄を張るためのものだから、きれいな店にしか売っていないはずだ。」
今回、取材同行してくれた夫のこのアドバイスにしたがって、こぎれいな店を探すことにした。歩き回って怪しい日本 人の雰囲気を撒き散らした挙句やっとこぎれいな店を見つけた。 「ちゃんと店の看板も出てるし、しっかりした店みたいだから、本物しか扱ってないんじゃないかなあ。」そう思いつつ中に入ってみると本物の商品がたくさん 並んでいる。 が、じっくり店内を観察すると、なんか、怪しい。真正品に混じって、出所不明な(販売元、製造元の記載も一切ない)トヨタやホンダのロゴを使ったテイルラ ンプや、キティーちゃん によく似た顔した猫の絵つきのライトがある。本物みたいにも見えるけど扱いがぞんざいなハンドルも天井にぶら下がっている。むむむ、もしやここは…。笑っ てしまうほどたくさんのコピー商品が並んでいる。トヨタやホンダ、ベンツのマークが入った加工前の車のキーもある。うぉーすごい。
目移りしながらも、一目でコピー商品とわかるテイルランプを買うことにした。700バーツ(2100円)。タイで 買い物するときのお約束言葉「安くして」をとりあえず言ってみると、簡単に50バーツ引いてくれた。買うときに「本物?トヨタ?ほんとに?」と聞くと「も ちろん。ほら、ランプもちゃんと点灯するでしょ。」と店員さんが、ランプの点灯を確かめながら答えてくれた。まあ、嘘つきなんだから。
コピー商品を領収書つきで手に入れて、すっかりご機嫌になったのでついでにドライブすることにした。道中アクシデント発生。
バンコクを離れ、田舎道をひた走っているときに、車が故障しちゃったのだ。エンジンルームのパーツが一つ、暑さで 破裂してる。うーん。困ったねえ。「パーツ買いに行ってくる」と姿を消した運転手さんが再び現れたのは30分後。交換部品を持っている。修理後、ドライブ を再開したら運転手さんがこう言った。
「いやあ、パーツ屋さんにトヨタの部品が欲しいって言ったんだけど、『そんなもんない。コピー商品しか置いてないよ』って言われちゃってさ。仕方がないからコピー品買ってきた」
真正品が市場になくてコピー品しか手に入らないという状況がなくならない限り、コピー品はこの世から消えない。いやはや、模倣対策って奥が深い。