タイ王国の商標事情
第21回 ジム・トンプソンのブランド戦略
タイに知財法があるということは、もちろんそれを扱う専門家がいるというわけで、タイにだって多数の特許法律事務所が存在する。タイの知財を語るなら、事 務所を訪問しないわけにもいくまい。というわけで、タイの有名ブランドを顧客に持つタイの法律事務所(Dej-Udom & Associates)を訪問。設立者であり、所長のMr.Dej-Udomにお話を伺った。
- 1986年に設立ですか。もっと古い事務所だと思ってたけど意外に新しいんですね。
「20年が新しいかどうかは疑問だが、僕のキャリアは長いんだよ。その前16年くらいアメリカの法律事務所に勤務していたし。事務所を設立する5年くらい前から知財を扱うようになって、1982年にはAPAAの副理事もやったよ。」
- 御所の扱うケースで一番多いのは?
「知財に限るなら商標。侵害事件等も扱うけれど、それよりは出願・登録のケースを扱うことの方が多い。顧客の90%は外国企業、外国事務所だよ。」
- でもタイシルクで有名なジム・トンプソンもメインクライアントでしょ?
「そう。たしかにジム・トンプソンはタイ企業だけど、日本資本も入っているし純粋なタイ企業っていうわけじゃないんだよ。」
- ジム・トンプソンといえばタイの一流ブランドですが、ブランド戦略についてどんなアドバイスをしているんですか?
「高い品質水準をキープすることで、知名度・高感度をアップする。あの会社はデザインや素材の質の向上に関してはかなり力をいれているよ。路上に出回っているタイシルクなんかとはきわめて違う。」
- 路上の屋台といえば偽物でいっぱいだけれど、「ジム・トンプソン」の偽物ってみたことないですね。
なぜなんでしょう。商標なんて、こっそりタグだけ付けちゃえば勝ちっていうところがあるでしょうに。
「それはこの国独自の侵害対策戦略があるのさ。ジム・トンプソンは高級シルクで有名。1950年には皇室ご用達品になっているんだ。この国ではね、王様や お妃様が使うものは恐れ多い、とっても恭しいものなんだ。だからたとえ、侵害品で暮らしをたてる悪人だって手を出さない。」
- なるほど。それは本当にこの国独自の侵害対策戦略ですね。
「さらにジム・トンプソンの商品を扱う店舗は限られている。「ここでしか売られていない」ということが認知されているから、誰も本物が路上で売られるなん て思わない。だから売り手もわざわざ捕まるリスクが高くて、儲かる確率の低いマネをしようとは思わない。だからジム・トンプソンの場合、商標侵害はさほど 憂慮していない。むしろ、生地のデザインについてのほうが問題なのさ。」
- それってどういうこと?
「生地のデザインを見て人は買う。それは、店舗内であろうと、路上であろうと変わらない。優れたデザインに人は惹きつけられるのでその良し悪しは売り上げ に大きく影響する。コピー業者は商標をコピーしようとは思わなくとも生地のデザインを真似することにかなり積極的だからね。複雑でコピーしにくく、かつ優 れたデザインを生み出そうと企業は努力するし、われわれ弁護士は、それを法律的にバックアップしようと躍起なんだよ。」
- なるほど。ところで今事務所のスタッフって何人くらいなんですか?
「総勢78人。うち36人は弁護士。知財部門には弁護士とスタッフを合わせて15人いる。うちの事務所は知財だけじゃなくて、税法部門とかイミグレーションなども扱っているから人数も多いんだ。」
- タイのホワイトカラーにありがちなことですけれど、勤務されている方は女性の方が多いんじゃありませんか?
「そう。女の人のほうが圧倒的に多い。知財部門の長は僕で男だけど、他の部門のリーダーは女性だし。女性の方が集中力あるし粘り強い。男はあっちにフラフラ、こっちにフラフラするからね。女性にはかなわない、かなわない。」
- でもアジア圏はもともと男尊女卑志向が根強いじゃないですか。
「それももう昔の話。あと10年たったらどうなるか。強い女性が増えていくと思うよ(笑)。 」
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